■改修を迫られる劇場・ホール
わが国での劇場・ホール、特に公立文化施設は1920年代からの公会堂の建設を契機に、その後の幾度かの建設ブームを経て急激に増加し、その数は有に2000館を超えている。その過程では文化行政の概念の萌芽や多目的ホールの技術的追求の発展、文化活動の活発化などにより公立文化施設が舞台芸術の上演に高度に対応できるよう計画され舞台や楽屋といった裏周り、ホワイエやロビーといった表周りの計画が充実した施設も多くなってきている。そして、これらの多くが開館後10年以上経過し修繕、更新や改修の必要性に迫られている。
劇場・ホールに限らず建物は必ず時間の経過と共に劣化していくものであり、その中には物理的に経年による性能の低下だけでなく、その時間経過に生じる社会環境や諸相の移り変わり、技術革新により建設当時は十分であったものが年を経ることで時代遅れとなり新たなる対応が求められる。具体的には舞台芸術の表現形態の多様化や舞台技術の高度化、アメニティ向上への欲求の高まりやバリアフリー化の流れなどである。
■長期的な視点で時代に即応した施設を
本来的にいえば、改修とは“「修繕」「更新」の要素を含みつつも、時代的変化、施設利用者からの要望を考慮しながら、積極的な機能向上をめざし、施設を竣工当初以上の状態に改める行為(劇場・ホールの改修工事に関する調査研究[JATET])”である。
したがって、施設の最低限の稼動やサービス提供に必要な修繕や更新を重ねていくことも重要であるが、長期的な視点で前述の本来的な改修を目指し時代に即応した施設としていくことが必要となろう。特に1970年代以降の文化施設では前述のように舞台芸術の上演にとって充実した建築計画の施設も多く、これらの施設では建物躯体を残し、内装や設備類を改修することにより十分に再生できる可能性はこれまで以上に高い。
改修には上記のような機能的な改善のほかにもその意味付けをすることができる。筆者が担当したある都市では、古い文化会館を立て替えるにあたって「古くても、使いづらくても 歴史がいっぱいつまっているこの建物がなくなるのは寂しい」との声を聞いたが、建物は単にその時々の活動を行う場という性格のほかに、人々の思いを蓄積していくという側面があるし、特に劇場・ホールといった活動の積み重ねにより新たなる文化を作り出すといった性格の建物ではよりいっそうこういった事を簡単に切り捨てるわけにはいかない。そういった意味では建築家・青木茂氏の提唱する、古い建物の柱や梁などを生かした上で再度新しい建物に生まれ変わらせるいわゆる「リファイン建築」の概念は、その建物の歴史を包含しつつも新たな機能や魅力を付加し生まれ変わるというものであり、施設整備コストを低減するという実質的な側面を除いても大いに参考になろう。
■運営を見直すいいチャンスにも
さらにもうひとつ意味付けをすることもできる。改修にあたってはこれまでの施設の使われ方、運営の方針や方法を踏まえ今後の戦略を練った上で具体的な改修計画をたてることが求められるため、これまでの運営をも見直すいいチャンスである。運営の中で建設当初想定できなかった利用がなされるということもある。そして、そうした運営の実態の中にその都市や施設の特性を見出し、それを元に他とは異なる「オンリー・ワン」の施設を作り上げていける可能性も広がってくる。もちろん、その実現にあたっては地道な記録の整理などの作業と運営スタッフの熱意、設置主体の理解が必要となるが、それらの労苦を見越しても余りある果実をもたらしてくれる。
いずれにしろ、現存する施設を改修する場合に積極的な取り組みがなされることを望んでやまない。
以下に劇場・ホールの改修に関連する参考文献を紹介します。現在そして今後改修を検討されている方々のご参考になればと思います。ただし、文献によっては入手が困難な場合があるかもしれませんのでご了承下さい。
【雑誌記事等】
- 季刊JATET 33 特集リニューアル
[(社)劇場演出空間技術協会](1999)
- 季刊JATET 36 特集リニューアルII
[(社)劇場演出空間技術協会](1999)
- 音響技術 No.108 特集:ホールのリニューアル
[(社)日本音響材料協会](1999)
【調査報告等】
- 舞台諸設備耐用年数調査
[(社)全国公立文化施設協会 技術委員会](1998)
- 公立文化会館の計画検討プロセスおよび改修のあり方に関する調査
[(社)全国公立文化施設協会](2000)
- 世界劇場会議 国際フォーラム2001 論文・報告集 Vol.8「リニューアル・継承と刷新と」
[世界劇場会議 国際フォーラム2001実行委員会](2001)
- 劇場・ホールの改修工事に関する調査研究
[(社)劇場演出空間技術協会 技術委員会 建築部会](2002)
(〔〕内は出典)
(株式会社シアターワークショップ 戸田直人)
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劇場・ホールでは、利用される方々に対して、様々な資料が用意されています。その中で今回は「仕込図」について紹介をしたいと思います。
上演に向けて舞台をセッティングすることを「仕込み」といいます。音響・照明・美術等の公演スタッフはそのプランをデザインし図面に表現していきますが、これが「仕込図」と呼ばれます。作成にあたっては利用するホールの正確な図面が必要とされ、劇場・ホール側から提供されますが、この原図についても「仕込図」と呼ばれるのが一般的です。吊物やコンセントなど舞台技術面の情報が記された図面以外に、出演者の楽屋割やスタッフの人員配置を考えるための図面など、制作・運営面で必要となる図面もあります。また、ホール以外の空間でイベントが行われるケースが増え、リハーサル室などと共にロビーやホワイエについても図面が求められる場合もあります。例として次のような種類があります。
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【舞台・音響・照明スタッフに関わる情報】
- 舞台平面図・断面図
- ホール平面図・断面図(舞台と客席・投光室等の関係を表現)
- 音響・照明回路図
【制作・フロントスタッフに関わる情報】
- 楽屋平面図
- エリア(全体)平面図
- 客席図(座席・扉番号などを表現)
- ホワイエ平面図
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建設に必要な情報で構成されている設計図面に対して、仕込図は劇場の運営に必要な情報で構成されます。その作成にあたっては、設計図面の参照に併せて実測調査が必要となります。
建設の際の図面は、その工事区分で建築・舞台・照明・音響等に分かれており、実際の使用には直接関わりのない情報も多いため、舞台技術的に必要な情報だけを取り出して再構成します。しかし、舞台まわりや搬入経路などについては、備品の収納スペースとして使用されるなど実際の有効寸法が異なる場合があり、実測調査による確認が必要となります。技術スタッフの使い勝手から竣工後に改修された箇所を反映させると共に、通常は使用しない扉や関係者エリアなどについて、実際の運営に合わせた図面表現を目指します。この他、技術面の詳細情報については、劇場・ホールの仕様に応じて仕込図の他に設備概要書としてまとめています。
現在仕込図の作成を担当させていただいている中で、現場のスタッフから直接意見を伺うことが、図面に関すること以外にも多くのことを学ぶ貴重な機会となっています。実際に使用されてから生まれる意見をさらにフィードバックして、必要な情報を分かりやすく伝える図面を作成していきたいと思っています。
(株式会社シアターワークショップ 水沼 健)