■舞台機構設備
劇場やホールの舞台には、舞台転換を行うための舞台機構設備が備わっています。演劇やオペラ、バレエの様に舞台美術を使用する作品においては、この設備が重要な役割を果たします。例えば、代表的な舞台床機構として「廻り盆」がありますが、皆さんご存知の“8時だよ!全員集合”では盆の半分を家の中と外のシーンに分け、盆をクルリと回して舞台転換を行っていました。
舞台の上部に設置された吊物機構には舞台美術を吊り込む「美術バトン」、照明機器を吊り込む「照明バトン」等の吊物バトンがあります。これらの設備を駆使して、舞台上で様々なシーンが創り出されます。
■舞台装置の大型化・重量化
古代ギリシャ演劇においては劇の場面設定は言葉によって説明され、舞台装置は殆ど使用されず背景幕のみでした。ルネサンス期のイタリアにおいて、ようやく舞台装置が演劇の視覚的要素として認識されるようになりました。この時期には人力による舞台迫りや舞台吊物機構等の舞台機構設備が発明されました。そして、幕類等に二次元で描かれた舞台装置は、近代になってより立体的なものも登場し今日に至っています。また演出技法や科学技術の進歩と共に、舞台装置の素材も従来の木材や布類に加えて金属やグラスファイバー、プラスチック等の新素材が使用されるようになりました。それは、舞台装置を出来る限り豪華に、本物らしく見せようとする目的に基づいています。そのことにより近年、舞台装置は大型化・重量化している傾向にあり、舞台機構設備は従来の仕様を見直さなくてはならなくなっています。
そこで、今回は舞台吊物機構である吊物バトンのうち「美術バトン」に着目し、その仕様について考えてみたいと思います。
■美術バトンの現状
美術バトンの許容荷重の算定においては、美術バトンやそれを支持するワイヤー、滑車等の吊り道具を支持するためのシステム全体が実際の吊り道具に耐え得るかが問題となります。しかし美術バトンに吊り道具を吊り込む際に、実際の吊り道具の重量や道具バトンを使用する本数を事前に明確に把握するのは難しいものです。それ故、考えていたよりも重量がかさんで吊り込むことが出来なかったり、道具バトンの許容荷重の不足によって吊り道具の大きさや重量が制限されてしまい、十分な演出が出来ないという状況も出てきます。重量のある吊り道具は美術バトンを数本使用し、荷重を分散させて吊り込むという方法も可能ですが、その為にバトンの本数が不足して他の吊り道具が吊り込めない場合もあります。
■美術バトンの駆動方式と許容荷重
では、近年の吊り道具を考えると一体どの程度の許容荷重が必要なのでしょうか。
バトンの駆動方式には「手動」と「電動」がありますが、手動の場合、作業効率や安全面等を考慮すると、400kgが限度です。許容荷重を400kg以上とする場合には電動方式を採用します。しかし作業効率や安全面を考慮して、それ以下の許容荷重でも電動方式の劇場も存在しています。
許容荷重は大きければそれだけ重量のあるものを吊り込むことができますが、重量のある吊り道具を使用する演目が少ない劇場の場合は、それ程大きな許容荷重は必要でなくなります。反対にバレエやオペラ、ミュージカルの場合では、重量のある吊り道具が使用されることが多く、かなりの許容荷重が必要となってきます。特に海外からの引越し公演の場合は、日本よりも重量のあるものが多い傾向にあります。また近年はバトンに重量のある照明器具を吊り込んだり、鉄骨のトラスを吊り込んだ下に人を吊るすというアクロバット的な演出の技法もでてきています。
■美術バトンのこれから
吊り道具に見合った美術バトンの許容荷重がなかなか得られていないのが現状で、これからは古い劇場においても美術バトンの許容荷重を増設し、様々な演出や吊り道具に対応していくことが必要です。
また国際的な動向や作業効率、安全性を考えると、駆動方式は電動であることが望まれますが、一方では綱元操作で昇降速度やタイミングを微妙に操作できる手動バトンが好まれるケースもあります。
最近では、手動バトンを電動機で補助する「電動アシスト」装置があります。これは電動機によって吊り道具とウェイトとのバランスをとる機能を有しているために手動ロープの操作性を向上させています。重量のある吊り道具も、この電動アシストによって仕込みを効率化させることが可能となりました。11/27にオープンする「北上市文化交流センター・さくらホール」の大ホール美術バトンには、この電動アシストが使用されており美術バトン一本あたりの許容荷重は400kgとなっています。この電動アシストを使ってどのような演出が行われるのか今から楽しみです。
- 参考文献:
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- Harold Burris-Meyer, Edward C. Cole 著、小泉嘉四郎、NHK美術センター監訳:舞台装置技術全書
- 日本建築学会編:多目的ホール舞台設計資料
- 田邊健雄 他:建築体系33、劇場の設計
- 林恵子:劇場・ホールの美術バトン許容荷重に関する研究−劇場・ホールの舞台吊物機構計画に関する研究−
(株式会社シアターワークショップ 林恵子)
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