芸術文化団体関係者や学識経験者だけではなく、地域に住む人びとが劇場・ホールの建設や運営に関与するケースが増え、一般化してきています。弊社が参加したプロジェクトにおいてもかなりの数に上っていますし、現在進行中の計画ではほとんどの場合、地域住民の皆さんと共に計画を立て、実践していく方式を採っています。
弊社が市民参加について明確な意識を持って取り組んだ最初のプロジェクトは、1995(平成7)年11月に開館した「黒部市国際文化センター・コラーレ」です。サッカーのJリーグにおけるサポーター組織を参考としながら、地域の人びとが様々な形で自発的にホールに関わっていく体制作りをめざし、文化倶楽部構想を立ち上げました。そして、現在でもコラーレ倶楽部として継続的かつ積極的な活動が展開されています。コラーレの活動については雑誌や調査などで何回も取り上げられているので、それらをご参照ください。
その後も、群馬県新田町での町民ミュージカルの制作を契機とした文化倶楽部構想や静岡県コンベンションアーツセンター・グランシップのグランシップサポーター計画の立案などを行い、弊社としても地域住民と文化施設のより良い関係作りに継続的に取り組んできました。近年の事例では、「北上市文化交流センター・さくらホール」や「原町市民文化会館・ゆめはっと」のように計画段階に参加していた市民の中から運営組織のスタッフに就職するケースも現れており、巷で言われているようなアリバイ作りのための市民参加ではなく、市民参画あるいは市民主体と言っても過言ではない状況が生まれています。
こうした文化倶楽部構想を立案するときに、ぼくが強く意識していたことがあります。それはボランティアとサポーターの違いです。これはぼくの偏見かも知れませんが、ボランティアを誤解している人が多いように思います。ボランティアの本来の定義とは異なり、ボランティアに参加する人たちの中には弱い者、困っている人を助けてあげるという意識の人たちがいます。ですから、フロントスタッフとして参加したときに、お客様から叱られて深く傷ついてしまうようなことが起こります。劇場のお客様は、正規のスタッフだろうとボランティアだろうと同じ劇場スタッフには変わりありませんから、きちんとした対応をしてもらって当然だと考えるものです。
その点、サポーターは自らやりたくてやっているんだという事が明確です。価値観の在りどころが相手がどう受け止めるかではなく、自分の満足にあります。そこで、弊社のプロジェクトでは敢えて文化ボランティアという言葉は避けて、ホールサポーターと呼ぶことにしています。人々にとって、劇場は自己実現を果たす場であり、その機会を作り出す場なのです。その結果として、他者の満足も生まれるのであって、第一義とすべきことを間違ってはいけません。
また、文化倶楽部という言葉もぼくのお気に入りで、倶楽部ライフを楽しむ生活というものを今後さらに展開しながら提案しようと考えています。この事については、いずれ詳しくお話します。
6年前の1999(平成11)年度に、早稲田大学文学部では劇場で働く人材を養成するための講座を開設しました。日本におけるアートマネジメント教育は、慶應義塾大学の美山良夫教授によってスタートし、その後、昭和音楽大学に音楽運営学科が設置され、本格的なアートマネジメント教育が行われるようになりました。現在では40数校で同様の教育が行われています。ぼくは慶應義塾大学のゲストスピーカーや昭和音楽大学の非常勤講師を務めてきたこともあり、早稲田大学は母校でもあることから、早稲田大学での「劇場人」養成のためのカリキュラム作りに参加し、現在は文学部の客員教授としていくつかの講座を担当しています。
早稲田大学のアートマネジメント教育の特徴は、文化政策などの理念から入るのではなく、舞台芸術の現場から学ぶことを重視しています。講座としては、現場で活躍している専門家を毎回ゲストにお迎えする「劇場」という入門講座から始まり、舞台美術、舞台照明、舞台音響、舞台監督、制作といった実務的な内容を扱う「舞台技術実習」、実際に夏休みの二週間で作品作りを行う「演劇ワークショップ」などを行っています。
また、もうひとつの目玉の講座として「劇場・ホール実習」があります。
いくら実践を重視するといっても、大学内での教育には限界があることから、劇場・ホールに行って実地で学ぶのが「劇場・ホール実習」です。開講して5年目となりますが、複数年履修も可能ですので、学部から受講し、さらに大学院でも続ける学生も増えています。大学としては、初級として認めるには3年間の実習が必要で、その上に中級、上級を設置し、9年間の実習を経てはじめて専門家の入口に立てると考えています。受け入れ先は国立劇場、新国立劇場、世田谷パブリックシアターなどの公立ホールが主体ですが、最近では制作会社や技術関連の会社での研修を受ける学生もいます。今年度は実習先がさらに広がっており、ク・ナウカのアテネ公演や平成中村座のニューヨーク公演にまでも実習に行っています。
実際の現場においてインターン生がどれほどの仕事をこなせるのかは、受講生の能力にもよりますが、初年度の学生では多くは期待できないでしょう。しかし、複数年の受講生や大学院生の場合には責任ある立場での役割を振られる例も出てきました。また、現場の人々にとっても新鮮なスタッフとして受入れてもらえるようになってきました。
劇場の現場には正規のスタッフ以外にアルバイトやボランティアもいて、そこに無給労働力としてインターン生が加わることになります。そうした現場ではインターン生は単なる素人のひとりではありますが、彼らの働く意識の違いは歴然としています。それは、彼らが今は素人に過ぎなくても、やがてはプロとしてこの世界でやっていきたいと考えているからです。ぼくが学んだ建築の世界でもアーキテクトになるための道筋があって、30歳くらいまでは著名な建築家のもとで、薄給であろうともひたすら修行を積むものです。前近代的ではありますが、まさにインターン生も同じ道筋をたどりながら将来を切り開いていくのだと思います。
公立ホールの運営組織計画では市民参加という項目が必須になっているとお話しましたが、もうひとつインターンシップの受入れという項目を追加してほしいと思います。産官学の協働が盛んになっていますが、劇場・ホールでも同様に教育機関との協働を図って、若い意欲的な若者を受入れることは大きなプラスになるに違いありません。
(株式会社シアターワークショップ 代表取締役 伊東正示)
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