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No.074

ホテルで学んだホスピタリティ精神をホール管理に

 株式会社シアターサポートでは、ホールの運営・管理に加え、ホールをご利用になるお客様のお弁当やパーティーの手配なども請け負っています。私は、昨年より品川インターシティホールにおいてそれら飲食関連業務を担当しており、業務の一環としてホテルの料飲部で3週間の研修を受けてきました。「ホテルサービスの実務を経験すること」が研修の目的ではありましたが、ホテルマンの接客マナーからもっと内面的なマインドに至るまで様々なことを学ぶことができ、その精神的なものが私にとって大きな収穫となりました。

■ホテルスタッフのホスピタリティ精神

 ホテルでの研修は、マナー(挨拶や言葉遣い・姿勢など)から実際の宴席や婚礼でのサービスの実務に至るまで多岐に渡るものでしたが、私が研修を通して何より勉強になり、また見習いたいと思ったのは、ホテルスタッフの"ホスピタリティ精神"でした。
 サービスの仕方に"必ずこう"という決まりはありません。むしろ、マニュアルに沿って淡々とこなすだけではただの作業になってしまいます。ホスピタリティというのは"お客様のために何かしてあげたいと思う心"のことです。「料理は左から、飲物は右からサーブ」という原則があっても、お客様にとってどちらから出すのが気持ちいいかは、臨機応変に対応しなければなりません。いかにスマートに歩きスマートにサービスするかではなく、いかに早くお客様のニーズを察知し行動するか、このホスピタリティ精神こそが重要なのです。
 もっと言えばホテルスタッフには、常にお客様のニーズを先読みし期待以上の満足を提供することが求められます。それに加え、基本的な知識とそれを応用する技術、また"良いもの""美しいもの"を見極めるセンスを常に磨いていかなければ、お客様に真に満足していただけるサービスは提供できません。それがホテルサービスのスタンダードなのです。

■ホテルのホスピタリティ精神をホール管理に

 ホテルとホール(劇場)は、提供するサービスの内容は異なりますが大きな共通点があります。それはどちらも非日常的な空間であることです。衣でも食でも住でもなく人生に必要不可欠ではないけれども、あることによって人生をより豊かにしてくれるもの、そしてお客様はその"非常に感覚的な何か"を求めてホテルやホールに足を運ぶのではないかと思います。だとすると、お客様がホールスタッフに求めるものは、ホテルスタッフに対するものと同じはずです。
 「ホテルの使命は、ゲストにふたたびこのホテルを訪れていただくこと」であると、研修担当の方にうかがいました。数多いホテルのなかで生き残っていくには、いかにお客様の心を掴み続けていくかが、大きな鍵となるのです。それは、ホールにおいても同じことだと思います。
 ホテルやホールをはじめ、ほとんどの施設が"ハード""ソフト""人"の三つから成り立っています。ハードの部分は時間の経過とともに古くなり、最新の設備を備えたものがどんどんできあがっていきます。その中でお客様に愛され続ける施設であるためには、ソフトの充実と人材の育成が重要だと思います。(当然、古くなったハードの改修や、古くならならないよう管理する"人"の努力も必要ですが。)
 現在私が常勤している品川インターシティホールは多目的ホールなので、ご利用になるお客様のニーズも様々です。すべてのお客様に高い満足を得ていただくには、お客様のニーズを的確に把握する力と、それを実現につなげる幅広い知識が必要とされます。ですが何よりも大切なのは、ひとつの催事が滞りなく終了するための細やかな心配りだと思います。今後も、ホテルで学んだホスピタリティ精神をもってお客様に接し、"また使いたいね"と言っていただけるホールを目指していきたいと思います。

(株式会社シアターサポート 松本さち子)


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No.075


ク・ナウカの野外公演を観て
 ギリシヤ演劇といえば、アリストテレスやエウリピデス、アイキュロス、ソポクレス等が挙げられます。もともと演劇は呪術や宗教的儀式が起源で、アテナイのデュオニュシア祭(毎年3月末から4月上旬にかけて行われた演劇祭)以前に始まっていたと言われています。このような催しが行われたギリシヤ劇場は今も遺跡として数多く残っていますが、ギリシヤ劇場は、初めての劇場形式でギリシヤ悲劇と喜劇を上演する為につくられました。ところで今年はソポクレスが誕生して2500年。それを記念してク・ナウカによるギリシヤ悲劇「アンティゴネ」が上演されました。
 今回の公演では上野の東京国立博物館の前庭に野外の仮設の舞台を設置し、博物館前の池の上に客席が組まれました。観客は博物館と向かい合わせになり、舞台とその客席の間に池が広がっている状態となります。この日はまさに台風が東京を直撃する前日であいにくの雨模様、事前に用意された雨合羽を着ての観劇でした。

■古代ギリシヤ時代の舞台装置

 今回の劇中では舞台の中心に檻のような舞台装置が組まれていましたが、今日の舞台機構とほぼ変わらない舞台迫りや舞台吊物機構等の舞台機構設備が発明されたのはルネサンス期のイタリアだと言われています。しかし、ギリシヤ時代の劇場においても舞台に様々な機械仕掛けが成されていました。道具バトン好きの私にとっていつも気になるのが吊物装置ですが、この時代にも既に飛行装置のようなものがあったといいます。舞台後方には背景幕や書き割が置かれ、三角形の木柱の3面に場面が描かれたもの(ぺリアクトイという)を回転させ場面転換を行ったり、現代でいうステージワゴンのようなものや雷の音を作り出す装置等、古代ギリシヤ演劇でも様々な舞台装置が使用され、大道具などが用いられていました。今日、演劇等で舞台機構や舞台装置は重要な役割を果たしていますが、実はその原点は古代に始まり舞台機構や装置はその時代から演劇と密接な関係があるのです。

■場所の持つ意味

 今回のク・ナウカの公演は、ギリシヤの古来聖地であるデルフィ古代競技場と昨年開館した北九州芸術劇場の中劇場(700席)でも行われました。デルフィは「世界のへそ」としても有名で、4年に1度「ピュティア祭」という競技大会が開かれた場所です(初めは8年に一度、音楽と文芸の神アポロンにちなんで詩、演劇、演説、音楽などのコンテストがメインに行われていたそうです)。そんなデルフィの競技場と近代的な建築物である北九州芸術劇場、そして重要文化財である東京国立博物館の前庭という、設立された時代も建築様式も全く異なる3つの場所で同じ劇団が同じ演目を行ったことに私はとても興味を抱きました。公演を行う場所によってその演目で訴えたいことやイメージが変わってしまうため、「場所」の持つ意味や役割はとても重要であると感じます。今回公演が行われたのは、歴史的にも建築的にも意味のある場所で、かつて古代ギリシヤ劇場で行われた歴史ある演劇を行うのにふさわしい場所だったのではないでしょうか。
 私は前に述べたように東京公演しか観ませんでしたが、他の地で行われた公演がどのようであったのかとても気になるところです。

■野外公演の魅力

 「劇場」の面白さは限られた空間の中で近代的な舞台機構を駆使し、いかに観客をあっといわせるかだと思います。逆に「野外」公演の面白さとは自然が公演の大きな要素となっているということではないでしょうか。自然には演者や観客が予測できないことが多く、同じ演目を同じ場所で行っても、自然の状況によって全く異なったものに仕上がるのはとても魅力的です。特に天候については毎回異なり、今回のように雨の中で劇が進行する場合もあります。そう考えると「野外」公演は自然に左右されがちなのではと感じるかもしれませんが、ク・ナウカがこのような非劇場空間での公演を好む理由は、「劇場空間で演じられる劇は『安全の保証された非日常』程度となっており、本来演劇の持つ人の感覚を身体の奥から変える魅力が損なわれてしまったり、都市での生活に慣れてしまった人間は身体の感覚や、自分も他者もひとつの生命体であること、生命の愛しさを忘れがちになってしまう」という設立者宮城聰氏の言葉からもうかがえるのではないかと思います。
 また、野外公演の持つもう一つの魅力は、イベント性が高く開放的であるので劇場には馴染みがない人でも、足を運びやすいということではないでしょうか。劇場に行かなくてもこのような野外公演に出かけることが、演劇や伝統芸能、コンサート等に触れ芸術文化に親しみをもつきっかけとなればと思います。
 今回は激しい雨が降り注ぐ中、凍えながら公演を観ていましたが、雨降る暗闇の中にライトアップされた舞台や舞台装置、博物館はとても幻想的でした。その中で静かに進行されるギリシヤ悲劇と演者の演技と台詞、そして音楽にも魅了されました。それはこの状況の中、この場所であったからこそ感じたのかもしれません。機会があれば、また同じ演目を天気のよい日に、また違う場所でみてみたいものです。

【参考文献・資料】
  • 劇場の構図:清水裕之著、鹿島出版会
  • 21世紀の地域劇場−パブリックシアターの理念、空間、組織、運営への提案−:清水裕之著、鹿島出版会
  • 劇場●建築・文化史:S.ティドワース著、白川宣力・石川敏男訳、早稲田大学出版部
  • ク・ナウカ公演「アンティゴネ」パンフレット 他

(株式会社シアターワークショップ 林恵子)

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